大嘗宮にて

「大嘗祭」(だいじょうさい)における中心的な儀式「大嘗宮の儀」のため、皇居 東御苑に設営されていた「大嘗宮」。その一般参観が12月8日まで18日間行われ、宮内庁の発表では792,911人もの方々が来場したそうです。このたびの天皇即位にともなう御大礼への関心の高さが伺えます。

 先月、弥生神社の「神道講座」では大嘗祭をテーマに加瀬直弥先生にレクチャーしていただきました。その学びを思い返しつつ、実際に祭祀の行われた場を見るべく、足を運びました。

 まず感嘆したのは建物の素朴さ。それは、皮をそのままにした黒木作りの鳥居や灯篭。スダジイの枝が何本も差してある膳屋(神饌を用意する建物)や柴垣からうける印象でした。可能な限り“自然”に近い状態であることを意識して、神聖な場が形成されているようでした。
 
 そこで、たまたま読んでいた高取 正男『神道の成立』にある大嘗宮に触れた部分を思い出し、はっとしました。

 天皇が忌みごもりして皇祖神を祀る大嘗宮の正殿、悠紀(ゆき)殿・主基(すき)殿は、外観は「萱葺、萱壁の黒木作り」という形式を保持する一方で、内部は平安時代中頃まで、「束草(あつかぐさ)」という青草を束ねたものを地面に並べ、その上に竹の簀、蓆を敷いたそうです。内外ともに自然そのものを徹底して取り入れようとした意味を、この著では、自然の持つ霊力を得るためだと考えます。

「その聖なる地位の交代にあたっての厳重なもの忌みと祭典に、この種の原始的で素朴な屋社がわざわざ作られたのは、地面と地面に敷かれた青草の上に身を置き、それの持つ精気に直接に触れながら忌ごもりをすることで、生命の再生と復活が図られたのだろう」

「地面や青草に潜む精霊の力で自己の再生と復活を図るような、本来の意味での忌ごもりであったと考えられる」
(高取正男『神道の成立』平凡社 P34∼36)

 収穫に感謝する祭祀と捉えられる大嘗祭ですが、同時に、神からの御力を天皇がその御身に得る、という秘儀でもあることが思い出されます。この世で神と触れるときの慎み、この国の人たちが抱いてきた自然への畏敬の念やその力への信仰の深さにあらためて思いを馳せました。
(権禰宜 池田奈)